策略

「あれは 嫁さんの策略だ」と 主人が言う
晩酌のグラスを 持ちあげながら
「あんな都合よく 子犬がくる筈がない」
昼前 店にやってきたMさんの車の下から
迷い犬が出てきた
それが気に入らない
「俺は 反対だ」とくり返す

「犬を飼いたい」
「地震の迷い犬をもらいに行く」と
数日前から 言っていた嫁さんと
大好きだけど
団地では飼えないMさんとの
これは 二人の策略だと 言う

とりあえず 牛乳を呑ませ 餌をやる
イラスト入りの ポスターを作り貼り出す
「迷い犬 預かっています」
警察にも 届けを出しに行く
夜になり ガレージの奥の柱にくくる
夜泣きもせず 朝を迎え
もう主(あるじ)のように
ふてぶてしく座っている 子犬

「俺とお前と どっちが長生きするか」
反対の俺の筈が 反対の言葉もなく
主人は いそいそと子犬を連れて散歩に出る
これは 嫁さんでなく
大いなる天の 策略ではないか と思う





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