戦友

六月は空梅雨で
七月になってから 雨が続いた
どしゃぶりの早朝の闇の中で
疾走してきた車に飛ばされ
街路樹にぶつかり
道路に叩きつけられた 貴方を
救急車は 人工島の市民病院に運んだ
JR ポートライナーを乗りついで
とりあえず 駆けつけた

あわただしく 看護婦がゆきかう
救急外来の だだっ広い部屋の
白いカーテンで仕切られたスペースで
戦いは 始まっていた
頭部挫傷 胸部損傷 左足骨折
酸素マスク 点滴のほかに
胸部に入れられた チューブから
泡立つ空気と血液が
ベッドサイドの透明な箱に貯められている
痛がる足をさすり 手を握る
それだけしかできないから
それだけの為に 座りつづける

手術の同意書に 署名をし 判を押す
「どうゆうご関係ですか」と医者は問う
雇用主と従業員ではあるが
はじめて 貴方がやってきた正月
焼き餅入りの すまし雑煮を
うまい うまい とおかわりした
関東の千葉生まれ 長島ファンの青年は
東京生まれの私と気が合い
私の作る味噌汁やうどんにつられて働いた
同じ釜の飯を食った仲間の付き合いは
もう三十有余年になる

数日後 手術はおこなわれ
三階の手術室前のベンチで三時間
一階の外来に戻り 処置 再輸血と二時間
ただ座って祈るだけで 日が暮れた
病院を出たのは 夜九時
むっとする熱気のホームで
ポートライナーを待つ
作られた島の 作られた団地の窓々に
家庭の数だけの 明かりがともる
家庭を作りそこねた貴方を
戦友として看とろう
戦いは 始まったばかりだ
汚れ物の袋をかかえこみ
私は眠るまいと 夜の海をじっと 視つめる





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